名著「ひこうぐも」で撃墜王・小林照彦少佐を悼む

「ひこうぐも」文庫版

軍関係の多くの良書を世に出してくれている光人社の書籍の中で、この「ひこうぐも」は著者が軍人や軍関連の専門家ではないという異色な本でありながら、紛うかたなき名著であり、文庫としてはかなりの頁数(600頁超)ではあるが、ぜひ多くの人に読んでいただきたい珠玉の傑作である。

ちなみに上の画像は現在でも販売されている光人社NF文庫版だが、私は昭和45年5月25日に単行本として養神書院から出た時の初版も持っていたりする。それほど大好きな本なのだ。

「ひこうぐも」初版本

大東亜戦争において、帝都防空の要となった我が帝國陸軍飛行第244戦隊の小林照彦隊長の奥様・小林千恵子さんによって書かれた本書の素晴らしさは、何よりその描写の豊かさだ。

第244戦隊の小林照彦隊長と言えば、B29相手の撃墜王として名を馳せ、今でも憧憬を持って語られるほどの至高の存在である。
三式戦闘機「飛燕」を縦横無尽に操り、無敵と思われた巨体のB29へ体当たりするかの如くの攻撃を繰り返した小林隊長の普段の姿が、時に絶妙なユーモアを交えて描かれ、奥様の感情の起伏の激しさと相俟って(?)読む者をぐいぐいと引き込んでいく。
戦地の小林隊長に会いに行くため、日本から朝鮮半島を経由して支那への旅をする道中では、朝鮮人や支那人の本質を的確に表現されていたりして、なるほどと頷いたりもする。
軍人、特に航空機パイロットという職に就いている人々の、緊張感に満ちた日々の合間に窺える、実に人間味豊かで優しい愛情に満ちた夫、あるいは父親としての日常の姿とのギャップは、例えば特攻隊で散った多くの若い航空兵を描いた幾つもの本の中にも出てくる要素であるけれど、その描写の生き生きとした筆致において本書の右に出るものはないと思う。

ちなみに三式戦闘機「飛燕」に搭乗する小林照彦隊長の雄姿は、2004年に出版された写真集「飛燕戦闘機隊」でも目にすることが出来る。

「飛燕戦闘機隊」01

撃墜王、小林隊長の凛々しい姿。

「飛燕戦闘機隊」02

「飛燕戦闘機隊」03

左が小林隊長である。
この「飛燕戦闘機隊」には、実に丁寧に着色された飛燕の写真が掲載されていることで私は狂喜して入手した。

「飛燕戦闘機隊」04

メジャーな本ではないので、関心のある方は絶版になる前に購入することをお勧めする。

この小林照彦陸軍少佐が殉職されたのが、昭和32年6月4日だった。
この記事も本当は6月4日にアップすべきだったが、個人的な事情で昨日まで身体を空けることが出来ず、本日のアップとなってしまった。

結末を知っている者は、本書「ひこうぐも」の後半は胸を締め付けられるだろう。
奥様が日々抱く不安は実にリアルなものだ。

B29の撃墜王として名を馳せた小林隊長が亡くなられたのは、戦後、難産の末にようやく我が国に生まれた航空自衛隊のパイロットとしてT-33を操縦されている時の墜落事故であった。
市街地への墜落を避けるため最後まで離脱せず機を操縦し続けた末での殉職であった。

T-33での事故と言えば、1999(平成11)年11月22日の入間河川敷への墜落事故を思い出される方も多いと思う。
あの事故の際にも、中川尋史二等空佐・門屋義廣三等空佐(階級は事故当時。後に1階級特別昇任)のお二人は、事故の被害を最小限に食い止める為に、小林照彦隊長同様、限界を超えてまで操縦桿を握り続け、安全な脱出に失敗されて惜しくも殉職された。

我が国の防衛の任に当たっている自衛官の方々は、敵機との戦闘だけでなく、常に事故とも隣り合わせの状況で日々任務をされているのだ。
そして、その自衛官の方々を支える家族の方の心情にも思いを馳せる。
いかに日々、不安を抱えておられるだろうかと。

このことを思う時、我が国の平和と安全は、こうした自衛官の方々が命を賭して守ってくれているからこそなのだと改めて痛感するのだ。

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