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設計の職に就く者の座右の書として。「零戦」堀越二郎著

「零戦 その誕生と栄光の記録」堀越二郎著 光文社版

私の本業が「設計」であることは以前ここでも書いた。

日本人で、設計の職にある者ならば一度は読んで欲しい名著が堀越二郎著の「零戦 その誕生と栄光の記録」である。

堀越二郎氏は言うまでもなく三菱重工で零戦・・・三菱零式艦上戦闘機の設計主任を務めた、我が国が誇る超々有名設計士だ。

零式艦上戦闘機だけでなく、九六式艦上戦闘機、局地戦闘機「雷電」、十七試艦上戦闘機「烈風」など、日本海軍が誇る名機の数々の設計に携わっていた氏であるが、これほどの本まで書けてしまうのだ。
その筆致の巧みさは尋常ではない。
光景の描写の的確さ、冗長なところの一切ない文体は、本業が設計士とはとても思えない。

概してある分野の大家と言われる先生が書いた本は、書かれている内容の価値はともかく、本としては面白味に欠けるものが少なくないが、本書は単純に本としても面白い。

私のように中小零細企業で設計をやってる者としては、チームを組んで設計をするというのがこういうことなのかとまるで手に取るように分かるし、当時としては到底実現不可能と思えるような海軍の無理難題に対して日々苦悶しながらも逃げることなく前例のない技術の開発に挑んでいく当時の三菱の技術者たちの熱い想いがひしひしと伝わってくる。
設計・技術側の熱さだけではない。
横須賀海軍航空廠で開かれた計画審議会で、後に「零式」と制式名を与えられることになる新型艦上戦闘機に求める性能において「航続力」「速度」「格闘力」の順序をどのように捉えているのか、と質問を繰り出した堀越氏に対して、源田実少佐と柴田武雄少佐が激しく議論を交わす場面など、命をかけて戦闘機に乗っている側からの言葉や態度にも美しき日本人の武士然とした熱き誠実さが満ち満ちているのだ。

本書を読んで、驚くと同時に実に羨ましく思うのは、三菱重工の軍用機開発にあたっていた堀越氏のチームの課長・服部譲次氏をはじめとして、上に立つ者の人格が実に素晴らしいことだ。
若い有能な者を社運はおろか国運を左右するほどの重要なプロジェクトに登用すること。そしてその力を発揮出来るような環境作り。窮状に陥った際の言葉のかけ方ひとつにしても、ため息が出るほどの心配りであるが、仕事に対する甘さは微塵もない。
こういう環境と才能と努力の結晶が「零戦」という、単発低翼単葉型レシプロ機の中で史上最高に美しいあの機体を持った傑作を生んだのである。

実は本書を読むまで、私も零戦にまつわるあの俗説・・・「航続距離、スピード、格闘性能では当時世界に比肩するものがなかった零戦だが、決定的に欠けていたのは防御性能だった。操縦士の命を守るための防弾対策が一切とられていなかった。これは如何に当時の日本が人命を軽視していたかという証左である」云々を信じ込まされていた。
だが、本書で堀越氏がこの俗説が如何に見当違いな妄言であるのかを、「腕を磨きに磨いた剣士が、軽快ないでたちで動き回り、よろい、かぶとに身をかためた多くの敵をなぎたおしてゆく、寡をもって衆をたおす剣法」に例えて明快に論破しているので、設計に縁のない方でも、ぜひこの部分だけでも読んでもらいたい。

零戦はまさに「戦闘機」なのである。
空戦によって敵機を撃墜するために、たとえ100グラムでも軽くしようと苦心に苦心を重ねて生み出された機体なのである。
命をかけた戦闘の場面で、被弾した時に操縦士の命を守る安全性も戦闘能力のひとつだろうが、敵から被弾されないほどに軽快に動き回り、相手よりも先に背後に回って撃墜する事が出来るよう究極に機体を軽くすることもまさにこの上ない戦闘能力であり、これが同時に操縦士の命を守る究極の安全策でもあるのだ。

零戦が生まれた当時のエンジンの馬力、使用出来た素材の比重、加工技術、これらの背景も考えず、防弾板が装着されているかどうかをもって、「軍国日本は人名軽視の非人道国。それに比べて米国はパイロットの人命を何よりも大切にしていた。これが最終的には勝敗を分けたのだ」などと物知り顔で言う連中の軽薄な頭の程度を知るためにも、是非、多くの人に読んでいただきたい。

しばらく絶版状態だった本書だが、来月12月に角川書店から新たに文庫版が復刊されるらしい。
これも嬉しいニュースである。

ちなみに、堀越二郎氏には奥宮正武氏との共著で同タイトルの「零戦」という著書があるが、別の本なのでご注意を。
本書は「零戦」に「その誕生と栄光の記録」という副題がつく方だ。

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