「伝統工芸品」を生活の中で使うということ・「岩鋳」編

以前にもチラッと書いた事があったと思うが、日頃私は製造業、何でも世間一般には「伝統工芸」と呼ばれる業界の中で仕事をしている。
だがこの「伝統工芸」を取り巻く現状は厳しい。私がこの世界に入って四半世紀が過ぎているが、入った当初と比べてみても、周りにいた人たちがどんどんと廃業し、いなくなってしまった。

本来、伝統工芸の多くは日常生活で使用される「道具」や住環境にまつわるものなど、つまりいずれにしても生活に密着した「もの」を作る技術の伝統を基盤としてきた。勿論、その中からは美術工芸として特化された技術も一部には存在し、その中の尖鋭化された部分については、元々が一般庶民の生活とは全く縁のない位(くらい)に属する人々に供され、かつ実用には程遠いものもあるから、それについてはここでは敢えて触れない。
生活の中で使われる「もの」の製造に於いて、現在のように工業的な生産が主流となるまでは、それ以外に生産手段がなかったのだから、当たり前だがどこもかしこも「手作り」だった。そして、そこには原材料(素材)の見極めから加工技術に至るまで、多くの経験や勘所を要し、その優劣が出来上がったものに如実に現れたから、優れた技術・技能・感覚は親方から弟子へと伝えられていった。そして、それらの技術も突き詰めれば次第に細かく専門化していき、また職人の世界では親方の元を離れ、平和的に「暖簾分け」するケースや、対立して飛び出して「独立」するケースなども頻繁に発生するため、それらが背景となって、一つのものを作るにあたっての地域的な「産地」を形成したのである。
しかし、それらも特に戦後には非常に難しい状況に陥った。交通面でのインフラが整備され、物流が格段の進歩を遂げると、ものによってはそれを作る「産地」の必然性が揺らいでくる。さらに日本人持ち前の研究熱心、努力好き、先取性はものづくりの世界で一気に工業化を推し進め、その高品質、低コスト高利益性は国内はおろか世界の市場を席巻した。その頃、既にものづくりは地域性から完全に離脱してしまったのだ。さらに戦後の我が国は好況の波に乗って、毎年のように地価の値上がりや人件費の値上がりが当たり前のような状況が続き、バブルが弾けてデフレの波が押し寄せた時には、一気に国内でのものづくりは非常に困難な状況に陥ってしまっていた。
だが、そんな主流の工業の流れの中で、手工業と呼ばれる一部分、中でも「伝統工芸」と呼ばれてきた一部分はどうやって生きてきたのだろうかというと、主流に対する反主流が安易に取りがちな方向・・・行政からの(特に文化的側面からの)保護・支援を取り付け、その条件として「昔ながらのやり方を変えないこと」を飲まされ、それで自らも手足を縛られてしまって、人々の生活とは離れた遠いところに取り残されてしまった、というところが大部分なのだ。人々の意識の中にも「伝統工芸品は使いにくくて現代の生活には合わない」と思い込んでいる向きもあるだろう。また、「良いのは何となく分かるけど、手作りって言うだけで高いんじゃ・・・」という意見も多く聞く。
だが、昔からあるものだからと言って決して「使いにくい」ものばかりではないし、高いか安いかという言葉は、本来、購入時の金額だけでなく、製品寿命や長く使い込んでいくことによって得られる充足感なども考慮に入れた上で使うべき言葉であるから、このあたりの事をもっと広く知っていただきたいと思うのだ。
例えば何回か前に紹介した蚊帳生地のふきんなどもその一例だし、今回紹介する岩鋳の調理器具などもまさにそうである。岩鋳とは岩手県の伝統工芸品である南部鉄器を製造してきた会社の一つで、近年、その良さが再確認されて話題になっているから既にご存知の方も多いだろう。

株式会社 岩鋳のホームページはこちら → http://www.iwachu.co.jp/

我が家で使っている岩鋳製品は玉子焼き器である(以下は購入時に撮っていた写真)
岩鋳 玉子焼き器 全体
岩鋳 玉子焼き器 上から

長い歴史の中で完成された道具の姿は美しい。
ここには必要から生まれた形があって無駄なものは一切ない。でもそれでいてなんかほれぼれするではないか。
鉄製鍋を使って調理することの健康面の良さについては古くから言われている事で、今でも北京鍋やら広東鍋に代表される支那鍋に鉄製鍋を使っている人は多いだろうが、同じ鉄でも支那鍋のようなものは鉄を打ち出しする工法で作られているものが多数であるけれど、岩鋳製品はその名の通り「鋳造」といって、溶かした鉄を鋳型に流し込むことによって作られており、それが南部鉄器の特徴である。

岩鋳 玉子焼き器 底面の鋳型印

鍋の底面にある銘印はこの鋳型によるもの。当たり前だが「MADE IN JAPAN」。
まぎれもない「鉄」なのに、鋳造鉄器の肌には「柔らかさ」「あたたかさ」を感じるのだから不思議である。
鉄製鍋は最近一般的になったIH調理器でも使用できるし、現在国内では主流のアルミ製フッ素コート加工の調理器具と比較してもその熱通りの良さは群を抜いている。そして、肉厚の鋳鉄であることからか、保熱性も良い。つまりIH調理器の場合、電源を切ってもアルミ製より冷めるのが遅いから、玉子焼きの場合、余熱で蒸らす事ができるからふっくらとする。
しかしアルミ製鍋と比較してネックになるのは重いことだ。アルミ鍋で慣らされ、やわになった腕では、初めて鋳鉄製の鍋を持つと「ええっ!」と思うくらい重く感じるかもしれない。
それが我が家で鋳鉄製の調理器具が玉子焼き器だけである理由でもあったりする。つまり小型の調理器具の方が、その重さの影響を受けにくいから。

それと勘違いしている人が多いから、この点だけは明言しておきたいが、「鉄製鍋はくっつきやすい(焦げ付きやすい)から使いにくい」と思い込んでいるとしたら、それは完全な間違いである。特に岩鋳の玉子焼き器に関して言えば、油の敷き加減を適切にやっていれば、全くくっつかないし、かえって安物のアルミ製テフロン加工の鍋の方が、あっという間にテフロンの効き目がなくなって酷い有様になる。そんな鍋を何度も買い換えることを考えるならば、最初から岩鋳の鍋を買ってしまった方がずっと経済的だし、精神衛生上も、そして健康にもよろしいのである。(事実、岩鋳の調理器具は決して高くない)
鋳鉄製鍋といえば、てんぷら鍋やすき焼き鍋と思っている人も、日常的に使用頻度が高い調理器具に、我が国が誇る伝統工芸品でもある鉄器を使用してみたらどうだろう。

こういうことで得られる日常のちょっとした心の充足感も大切なのだ。
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